筆者はかつて写真クラブに入っていたことがあります。そこには経験豊かな方が多く所属されていました。みなさんプロとして活躍されている訳ではないのですが、今思い返しますと、何度も個展を開催されている方、かつて写真スタジオを経営されていた方、フォトコンテストで審査員を務めた経験のある方、写真を撮るため世界各地へ旅行される方、独特の感性があり力ある作品をよく撮られる方、物撮りが上手い方、色彩センスが優れた方など、実に個性的な方々が所属されていたなあと思います。そして、先生はスポーツ・広告系業界で活躍するプロ写真家の方でした。筆者が若輩者で最も経験が浅かったこともあり、みなさんにとてもよくしていただきました(確か筆者の次に若い方が50代、上は70代後半だったと記憶してます)。曖昧な質問でも丁寧な応答をしていただいた、使用していない機材をいただいた、写真関連の最新情報をいつもシェアしていただいたなど、挙げればきりがありません。主催者の事情により惜しくも解散してしまいましたが、人や環境に恵まれた貴重な経験をさせていただけたと思います。
今日はその時の体験談を一つお話ししたいと思います。
写真クラブに入会した当時、筆者はカメラなどほとんど触ったこともない初心者でした(写真を始めたきっかけや入会経緯を話しだすと長くなりますので、その話は他の機会に)。撮影機材を何も持っていないという状況でしたので、とりあえず知人からカメラとレンズを借りました。先生のお弟子さんからシャッタースピード、絞り、ISO感度(ASA感度)について簡単な説明を受け、わからない事があれば聞いてください、以上!という感じのスタートだったと記憶しています。先生が手取り足取り教えてくれる、講義がある、ということはなく、会員が質問すると先生が応えてくれる(随時質問OK)というスタイルでした。おそらく会員の写真経験値が高く、各々の自主性を重んじるクラブだったからでしょう。
クラブでよくあったのは、各人撮影した写真プリントを好きなだけ持ってきて先生に渡す→その中から先生が選んだものを机に並べる→それぞれ自由に見る→質問があれば撮影者・先生に聞く→各人投票権をもち、いいと思った写真に投票していく→投票数の多いものから3つ選ぶ→撮影者と先生が解説・質疑応答、という流れでした。
当時の筆者は何を質問していいのかすらわからない状態でしたので、黙々と観察し続けました。で、家に帰った後、いいなと感じた写真について、なぜいいと感じたのか、表情か?、空気感か?、色か?構図か?、背景のボケ具合か?、シャッタスピードや絞りを使い分ければいいのか?など思案していたように思います。いいなと思った部分を再現する・自分の写真に応用するため情報収集と試行錯誤に勤しんでいた覚えがあります。そうしていくうちにどんどん疑問が出てきて、写真クラブでも段々と質問ができるようになりました。(いいなと感じた写真を)観察→自分で考える→試行錯誤と応用→観察→・・・この繰り返しが上達を早めたと思います。
これは写真以外でもそうだと思います。昔は「見て学べ!」「技術は見て盗め!」ということは暗黙の了解でした。伝統文化・職人・武術の世界は今でもその傾向が強いです。師と同じ空間を共にし、見て、感じて、試行錯誤して、師の技術や考えを自分に落とし込む、そして自分のものへと昇華させる。これは学びの基本であり、近道です。筆者は興味を持った事柄について真剣に学びたいと思った時、やはり同じような過程を経て習得してきたと、今ではそう思います。
※昔の師弟関係(筆者が聞いたのは明治〜昭和初期の話)は現代と比べ非常に厳しかったそうです。例えば、技を見せるのは一度だけ、聞いても教えてくれないのは当たり前だった、たった一度のチャンスを見て盗むしかなかったそうです。また、師のあり方が理不尽であることもざらだったと聞きます。学ぶ側にモノにしようとする強い気概がなければ無理だったでしょう。それに比べ現在は随分と状況が変わってきました。何かとパワハラが問題になりやすい昨今、師の人格のあり方が問われているように感じます。指導は優しく丁寧に、と教え方も緩くなりました。今は学ぶ側の気概さえあれば、昔よりずっと習得しやすい環境であると感じます。気を引き締め真剣な気持ちで取り組んでいきたいものです。