昔写真の先生が辞める時アドバイスとして言われたことがいくつかあります。今回はその一つをご紹介したいと思います。

 

「テクニックやスキルを磨くことは大事だけれども、それよりたくさんの人に会って話を聞くことの方が大事」

この言葉が一番印象に残っています。

言われた当時は「そういうものか〜。覚えておこう。」といった感じであまり深く考えていませんでしたが、月日を重ねる毎にこれはとても大事なことだと思うようになりました。

 

筆者の経験では、人と交流を深めることで知られていない撮影地を教えてもらえたり、撮影許可がおりたり、人を紹介してもらえたり、普段入れないような場所に案内してもらったりすることがあります。元来疑問に思ったことは何でも質問する癖があり、大体それが人に話しかけるきっかけになります。そして、色々応えてもらっているうちに打ち解け意気投合するというパターンが多いです。

ある程度の信頼関係ができたからこそ人や場所を紹介してもらえます。その一歩は相手の話を聞くことだなぁと思います。こちらが話すことよりも相手の話を聞くことが大事です。恐らく相手の話を聞くことに重点を置いていなかったら、打ち解けた関係にはならなかっただろうというケースが多々あります。「人に会って話をしろ」ではなく「人に会って話を聞け」という言葉はまさにその通りでした。また、何気ない会話の中から気づきや閃きが出てくることもちょくちょくあり、これがとても重要です。それが現状打破のきっかけになることもありました。それに、広い人脈は生きる上で有益な場合が多いと推測しますが、人脈作りにおいて話を聞くことは第一と思います。

 

人を撮影する場合でも話を聞くことは大事なように思います。

どういう写真を撮るのか、例えばストリートスナップなのか、モデル撮影なのか、いわゆる旅写真なのか、ドキュメンタリーなのか、などで違いはあるものの、ちょっと話しかけて相手のことをよく知らず撮らせてもらった写真と、交流を深めその人の背景をある程度理解した上で撮らせてもらった写真とでは違いがあるように感じます。あえて相手のことをよく知らずに撮った写真はそれはそれで良さがある場合もありますが、それよりも何か表層的な印象を受けるケースの方が多いのです。

察するに、被写体のことをある程度知った上で撮る場合だと、意識の向けどころが変わってくる、つまり撮影の方針や気になるところが出てきます。例えば、〇〇しているところを撮りたい、背景に〇〇を入れたい、場所は〇〇がいい、時間帯は〇〇時頃がいい、とかです。それは洗練された写真へとつながるでしょう。また、被写体がどんな人か知った上でそれでも撮りたいということは、それだけ深く相手に関心を寄せていることになります。力のある写真は撮影者の意志の強さとでもいいましょうか、恐らく撮影者は被写体(もしくは概念)とかなり向き合ったんだろう、あるいは被写体や撮影を通して内観と考察を巡らせたのだろう、といったものが写真中から滲み出ているような気がします。そのための第一歩はやはり人に会って話を聞くこと、それが己の中で被写体や概念について掘り下げていくことにつながり、力のある写真が出てくるのだと思います。