本日はモノクローム写真のお話です。
モノクローム写真を見たことがない、知らないという人はいないと思いますが、簡単に説明します。
モノクロームとは単色で表された図画のことで、略してモノクロとも呼ばれます。写真表現では黒白写真のことです。なので、モノクロ写真は英語でmonochrome photographあるいはblack&white photographといいます。
モノクロ写真の特徴は黒の濃淡や諧調にあります。それを作り出すのは光です。光が強く当たっている所ほど白くなり、弱い所ほど黒くなります。黒の濃淡だけで表現するため、カラー写真より諧調の加減、つまり極端さや滑らかさが強調されることになります。もう一つの特徴は非現実的表現であるということです。普段眼に見えている世界は色で溢れていますが、モノクロ写真では黒白のみ。形はそのままなのに色がないという状況は、それが現実を写したものにも関わらず、そこはかとなく現実感がないように感じられます。
モノクロ写真の強み。
一つは被写体を強調できること。
先ほど少し触れましたが、人は普段色に溢れた世界を目にしていると思います。人が考えている以上に色が持つ情報、人に与える影響は多大です。その情報が削ぎ落とされると、シンプルに被写体や形に目がいくことになります。光や影、形が顕著に表れます。自ずと被写体が強調されることになるわけです。明暗差を意識しながら撮影することで、立体感のある写真を撮ることもできます。
二つ目は諧調の美しさ。
諧調の美しさ=光の微妙な変化度合とすると、光の当たり加減をうまく把握する、もしくはコントロールすることで、美しい階調を生み出すことができます。モノクロフィルムを使うのが当たり前だった時代に撮られた写真、特にその時活躍した写真家のプリントには、諧調の美しさに驚かされます。例えば、ユージン・スミス、アンセル・アダムスといった写真家のプリントです。もしオリジナルプリントを見られる機会がありましたら、是非ご覧になられることをおすすめします。彼らに卓越した撮影、現像、プリントのテクニックがあったことは言わずもがな、フィルムが使われていること(デジタルよりフィルムの方がラチチュードが広い、つまり明暗の再現可能幅が広い)、適切な印画紙が使用されたことも要因でしょう。ただ、その美しさはモノクロ写真だからこそできた表現だと思います。
なお、15年程前頃から印画紙に含まれる銀が減ったようで、以前のような諧調の美しさを重視したゼラチンシルバープリントは作れなくなってきているように感じます。諧調の美しさを追求するのであれば、プラチナ・パラジウムプリントという表現技法があります。コンタクトプリントであるため、ネガの段階で完成させる必要がある、引き伸ばしができない、コストがかなりかかるといったデメリットがあるものの、黒の深みや諧調の滑らかさは随一です。
三つ目は時代性がなくなることです。
色は時代を表すことがあります。例えば、時代によって衣食住に使われがちな色があります。また顔料染料の褪色具合も時代によって違いがあるように思います。そのため色情報がなくなると、いつの時代かわからなくなる。ひいては現実なのかどうかわからなくなるということがあります。ドキュメンタリー要素を除去した写真、抽象的概念を扱った写真、普遍的なテーマの写真などはカラーよりモノクロの方が相応しい場合が多いように感じます(ただ、人にイメージしてもらいやすい、共感してもらいやすいのは普段から見慣れているカラー写真だと思います。結局のところカラー、モノクロどちらにするかは「作者の意図が何なのか」によります)。
モノクロ写真には以上のような特徴と強みがあるわけです。
ここでおすすめするのが、モノクロ写真を撮るかどうかに関わらず、「モノクロームの目」を持つことです。
「モノクロームの目」とは、眼に見える色に溢れた世界をモノクロ変換して見ることです。これは筆者が写真を始めてしばらくしてからもらったアドバイスでもあります。モノクロ変換して見るということは、色情報を除外し、光の強弱、形、被写体にフォーカスすることですから、これを続けていると光を読むのが上手くなります。写真とはphotograph、つまり光で描かれた図画ですから、光は必須です。光を読むのが上手くなる=写真が上手くなる、といえます。「モノクロームの目」を持つことは写真を撮らない方にもおすすめできます。先ほど述べたように、人は日常生活の中で色にかなり影響を受けています。色という情報を省くことが物事を簡素化することにつながり、状況把握に役立つ場合があります。始めは中々できないかもしれませんが、続けていくうちに効果が出てくると思いますので、興味がある方はお試しください。